Uga 出雲に鎮座する韓国伊太神社は今来の神か


1.史料

1−1『日本書記』
(住吉大神)の荒魂を軍の先鋒となし、和魂を皇后の船に鎮めよ。

1-2 『古事記』
ここにその御杖以ちて新羅の国主の門に衝き立て、すなはちすなはち墨江大神の荒御魂を以ちて、
国守ります神として祭り鎮めて還り渡りたまひき。

1-3 『住吉大社神代記』
凡大神宮。所在九箇處  新羅國一處 住吉荒魂三前

1-4 『日本書記』
従軍した表筒男、中筒男、底筒男の三神は、皇后に、「荒魂を穴門山田に祀れ」と言った。

1-5 『播磨国風土記』
飾磨郡因達里を見ると、神功皇后が「韓国を平けむと欲りして渡りましし時、御舟前の伊太の神ここにましき。故、神の名に因りて里の名とす」とある。

1-6 『住吉大社神代記』
子神の船玉神は、紀国で紀が祀る神で、志麻神、静火神、伊達神の本社である。

住吉大神の子神(若い神、新神、荒魂)が船玉神、紀国では伊達神など三座となっている。
皇后の船の先鋒の神が住吉荒魂であり、(播磨の)伊太神と見なされていた。



2.延喜式記載のイタテ・イタチ・インタチの神
紀伊名草 伊達神社[イタチ](名神大)     1-6 『住吉大社神代記』
播磨揖保 中臣印達神社
播磨飾磨 射楯兵主神社           1-5 『播磨国風土記』
山城愛宕 伊多太神社
丹波桑田 伊達神社(津根) 伊達神社(余部)
尾張春日部 伊多波刀神社
伊豆賀茂 伊大和氣命神社
陸奥色麻 伊達神社 色麻はシカマ、播磨からの勧請であろう。
これらの祭神はすべて五十猛神となっている。

イタテの神を奉じた物部の一団は、播磨から、紀伊、尾張、伊豆、陸奥へと移った者がいた。海人であった。かれらは、宮廷十二門の内の伊楯門(後の上西門:西面、築地を切り抜き、屋根なし)を守護した。陸奥地方に根付いた者達は伊達として栄え、長く歴史に名をとどめた。
江戸時代に、陸奥の伊達神社は仙台藩の伊達家に遠慮して神社名を香取様と変えていた。


住吉大社の船玉神社

紀伊国 伊達神社 (名神大)



3.伊達神は五十猛神か


 スサノオ神が、韓国(新羅)を経由して出雲へ降るさいに同行した神が御子神の五十猛神であり、このことを前提として、千家俊信は、「伊太は、は気とかよひて五十猛と同じ。忌部正通が神代口訣に、肥前国西南沖五十猛島、又貝原好古が考に、「筑前国御笠都筑紫神社は五十猛神といへり」と述べており、さらに、韓国伊大神社および五十猛神に関連あるものとして、「又帳に、紀伊国名草郡伊達神社名神大あり。是と同神なるべし。又同郡に伊太祁曽神社名神大月次相甞新甞 あり。又大隅国囎唹郡韓国宇豆峯神社あり。是韓国てふ言を冠らせたる例也。又仁多郡伊我多気神社も此神を拝祭れり」としている。

タテとタキ・タケ *テ  *キ・*ケ 日本語では同じ様な意味にならない。
伊太と五十猛を同じとするには、アイヌ語(大三元)、朝鮮語(金達寿)を応用すれば可能と。
神奈備が五十猛神を祀る神社参詣を続けている選択基準は、現に祭神が五十猛神もしくは文献で五十猛神とされていれば、カウントする。450社程度。



4.出雲にだけ鎮座する韓国伊大神社について


出雲国風土記に神祇官記載の神社と記載のない神社の一覧がある。延喜式による追加が見える。
風土記には、五十猛神や伊大神についてのお話はない。

延喜式神名帳に記載の韓国伊大神社は全て「客神」の扱いである。
意宇郡
主神 玉作湯神社
客神 同社坐韓国伊太神社 現在は摂社の加羅志神社と思われる。

主神 揖夜神社
客神 同社坐韓国伊大神社 本殿の真後ろに鎮座。

主神 佐久多神社 来待神社に合祀されている。
客神 同社坐韓国伊大神社 嘉羅久利神社として別に鎮座している。

出雲郡
主神 阿須伎神社
客神 同社神韓国伊太神社 本殿に配祀されている。

主神 出雲神社 加藤義成の『出雲国風土記」では出雲大社の本殿真後ろの素鵞神社に比定。
客神 同社韓国伊大神社 加藤義成の『出雲国風土記」では、神魂伊能知奴志神社に比定。

主神 曽枳能夜神社
客神 同社韓国伊大奉神社 本殿背後に祠がある。


風土記編纂の頃(8世紀半ば)には韓国伊太神は出雲にはなかった。それが延喜の頃(10世紀)には、6社もできており、かつ式内社となっている。

韓国に絡む事項としては、相変わらずの新羅との不和である。貞観八年(866)、肥前国大領、新羅の対馬襲撃を太宰府に奏上している。朝廷は新羅兵に備え能登・因幡・伯者・出雲・石見・隠岐・長門の 七国と太宰府に命じて諸神に奉幣して鎮護の殊効を祈らせると共に兵の訓練を命じる。
翌年、新羅調伏のため伯香・出雲・石見・隠岐・ 長門の5国に四天王像を安置させたりしてる 。

神功皇后伝承から、「韓国を平定した伊太の神」を神の国で新羅にゆかりの(味方をするかも知れない)出雲に命じて祀らせたのではなかろうか。



5.「韓」のついた神

宮中神     韓神社二座[カラ]
河内国志紀郡 辛國神社[カラクニ] 雄略期創建伝承。渡来人葛井神。
出雲郡出雲郡 韓竈神社[カラカマ] 朝鮮渡来の釜を祀る。
豊前國田川郡 辛國息長大姫大目命神社 宇佐八幡に先行する。帰国伝承。
大隅國囎唹郡 韓國宇豆峯神社     奈良時代に勧請。

韓・辛がついている古社は、渡来神の匂いが漂う。では、韓国伊大神は渡来神ではないのか。
鎮座時期を考えると、韓国(新羅)と険悪な関係であり、神を勧請したと言うよりは、昔韓国を平定した神を祀ったと考えるのが常識的だろう。


以上