下照比売と赤留比売



1 五男神と国譲り交渉経過


天照大神と素盞嗚尊との誓約によって五男神が誕生した。
天忍穂耳尊、天穂日命、天津彦根命、活津彦根命、熊野久須毘命。


●高皇産霊尊は天忍穂耳尊の御子の瓊瓊杵尊を葦原中國の主としたいと思った。しかしそこは螢火のように光る神や、蝿のように騒がしい邪神がいる。また草木もみなよく物をいう国であった。

●先ず、天照大神の二男である天穂日命を派遣した。
しかしこの神は三年経っても復命をしなかった。その子を遣わしたが同じことだった。

●次ぎに天国玉神火の子の天若日子を遣わした。
天若日子は大己貴命の娘の下照姫を妻にして、葦原中国の統治者になろうとして、8年復命しなかった。これを問いただすべく無名雉が遣わされた。天探女がこれを報告し、天若日子は射殺した。その矢が高皇産霊尊の下に届き、尊は投げ降ろしたところ、天若日子の胸にあたり、天若日子は死んだ。

●若日子の妻の下照姫は嘆き悲しんだ。8年もいた天若日子との間に御子は生まれたのか?



2 天若日子を祀る神社・活躍の場。


出雲 神社 阿須伎神社に2社の天若日子神社、ともに式内。『出雲国風土記』は1社。
伝承 天若日子や下照比売のことは『出雲国風土記』や神社伝承に出てこない。

近江 神社 天稚彦神社安孫子神社 三代実録に近江国天若御子神とある。
伝承 勝鳥神社、天稚彦神社の社伝に立ち寄ったとの伝承が残っている。

摂津 神社 売布神社高売布神社は下照比売を祭神とする式内社。大和・河内に長柄神社。
伝承 『摂津国風土記』(逸文)難波の高津は天稚彦が天くだった時、天稚彦についてくだ
った神、天の探女が、磐船に乗ってここまで来た。磐船が泊まったので高津と言う。

出雲 阿須伎神社に天若日子神社がある理由 天若日子は阿須伎神の味耜高彦根命の神友。
近江 天稚彦神社 美濃の国での戦いで亡くなった天稚彦を下照姫命がほおむった。



3 天若日子の正体


国譲りには先ず天照大神の次男の天穂日命が派遣された。
次ぎに遣わされたのは立派な若者と称えられた天若日子である。天照大神の他の皇子よりも優秀な青年がいたことになる。

神話としては、天照大神の三男の天津彦根命を派遣するのが順当なところと思われる。
伝承としては天津彦根命が遣わされたのだが、返し矢で殺された不名誉の死をとげたので、天若日子と言う架空のミコトを作り、これに置き換えたと考えられる。

『記紀』では、天若日子は呼び捨てされている。
天若日子は天津国玉神の子とされている。顕国玉神の子である下照比売に対応させている命名。

伝承としては、天照大神の三男の天津彦根命が遣わされたのであろう。近江国蒲生稲寸の祖、また河内国造の祖であり、近江、河内に関連が深い神である。



4 赤留比売の親神は?

                  鈴木真年『百家系図』『諸系図』の御上祝の系図から *1
          (天若日子)
天照大神 −− 天津彦根命 ┌ 天御影神(天目一箇命、天津麻羅命) 刀自→大目
            ├ −−−┤         ↓香春神社の祭神
大国主神 −− 下照比売   └ 比売許曽命 息長大姫刀自命 = 赤留比売。
                                           ↑*3




5 赤留比売の足跡(神社)

1 福岡県前原市 託杜神社
2 福岡県前原市 高祖神社(高磯媛)
3 福岡県香春町 香春神社
    息長大姫大目命を赤留比売とする説がある。*3
4 大分県日出町 稲荷神社
5 大分県豊後高田市 三宮八幡社
6 大分県宇佐市 宇佐神宮
        比売神とは3の女神との説あり
7 大分県姫島村 比賣語曽社
8 広島県呉市 亀山神社
9 広島県福山市 亀山八幡神社摂社日ノ女神社
10 岡山県総社市 姫社神社
11 大阪市西淀川区姫島 姫嶋神社
12 大阪市大阪市東成区東小橋 比売許曽神社
       『記』難波の比売碁曽の社に坐す阿加流比売神と謂う。
       延喜式臨時祭条『比売許曽神社一座 亦号下照姫神社』
13 大阪市平野区平野東 杭全神社摂社赤留比売命神社
14 大阪市平野区喜連 楯原神社
15 大阪市住吉郡 住吉大社第四宮 神功皇后        元々赤留比売であったとの見方がある。

                                                  

6 難波の下照比売と味耜高彦根にゆかりの地 *2

                                                  夏至日の出

                                                     飯盛山
                                          /
                              山王宮神社
                           /  河内湖に浮かぶ島で迎日の場
                 阿遅速雄神社
                 味耜高彦根
        比売許
産湯稲荷   曽神社     鴨高田神社       石田神社         くらがり峠 彼岸日の出
 下照姫   下照姫       大鴨積         長大な磐船
アジスキが    \
掘った井戸           波牟許曽神社
日の出観測の場所          蛇神    \
                               長柄神社跡
                                事代主                  高安山
                                下照姫          岩戸神社
                                     恩智神社跡  磐窟    冬至日の出
                                     御食津神



7 杭全神社摂社赤留比売命神社の意義。


『住吉大社神代記』 大神の子神が記載されている。一部を示す。
住道神 神須牟地神社のこと 大阪市住吉区長居西
中臣住道神(須牟地) 大阪市東住吉区住道
須牟地曾禰神 堺市蔵前町

住吉大社から大和へ向かう道を磯歯津路(シハツ)と言う。その道筋に鎮座する神々である。
須牟地神は古来酒作りの神とされ、新羅客の入朝の際賜う神酒を醸造した。

赤留比賣命神 大阪市平野区平野東  元は住吉大社の摂社であった。
赤留比賣命神社では、新羅から招聘した巫女達が新羅客に酒をすすめたのであろう。
『忌部記文』に「須牟地の神酒を賜うて穢を祓はない者は日本人ではない。」とある。俺の酒が呑めねえのか?

磯歯津路(しはつみち)            (長居公園)               赤留比売神社
      住吉大社   −− 神須牟地神社  −−                 −−  高安山
                              中臣須牟地神社



8 赤留比売は豊受大神になった。


●日神は御食神を呼ぶ。
阿加留比売は天之日矛の為に、「種々の珍(タメ)つ味(モノ)を設けて、常にその夫に食はししめき。」とある。この女神は御食都神そのものである。
『紀』では、天照大神が、月読命が殺した保食神の身になった穀物を取りに行かせた。また後世、伊勢の地で、天照大神は御食神である豊受大神を丹後から迎えさせた。

●さて、御食津神であった赤留比売は摂津に来てからどうなったのでしょう。住吉大社第四宮は姫神宮と言う。現在は神功皇后を祭神とするが、本来は摂津の女神赤留比売神であった。
これは新羅の客を迎える磯歯津路の出発点であったことによろう。

●住吉大社の設立当初は津守氏と船木氏が祭祀を司っていたが、いつの間にか船木氏の姿が消えている。また第四宮の祭神が神功皇后に置き換えられている。
●『摂津国風土記』(逸文) 「昔、豊宇可乃売神はいつも稲倉山にいて、この山を台所としていた。後にわけがあって、やもうえず、ついに丹波の国の比遅の麻奈韋に遷られた。」とある。

●『丹後国風土記』(逸文)には、豊宇可乃売神は舟木の里の奈具の村に至ったとしている。
摂津の国の豊宇可乃売神とは船木氏が奉じた赤留比売神のことだったかも知れない。



9 『摂津名所図会』に見る鶴橋近辺


『摂津名所図会』鶴橋近辺


比賣許曽神社 味原郷小橋村にあり。村の生土神。11月25日橋架の神事。(今は廃絶)
祭神下照比売命、亦の名稚国玉媛、或いは天探女。天磐船に駕り天より降臨、故に高津。
元の祭神は赤留比売であった。延喜の頃は下照比売。配神に小橋命。末社 阿遅速雄祠 。

産湯清水 小橋命の産湯の水。名泉、味わい甘味。味耜高彦根神が掘ったと言う。
比売許曽神社旧社地と云う。愛来目山。

高彦崎 味原池の東にあり。味耜高彦根神降臨の地なるへし。

磐船旧蹟 味原に石船があり、往年、下照姫神垂迹の跡と云う。田の西120mの天理教会。

万葉 0292 久方の天(あま)の探女(さぐめ)が岩船の泊てし高津は浅(あ)せにけるかも

味原池 小橋村の西にあり。比売許曽神の御影池といふ。白鴨御池とも云う。

猪甘津橋 小橋村の東、百済川小架る橋と云う。一名鶴の橋。
『仁徳天皇十四年紀』 爲橋於猪甘津。即號其處曰小橋也。

胞衣塚 味原池の二町許東にあり。小橋命の胞衣を蔵めし所と云う。比売許曽神社域内。

小橋命 藤原氏や中臣氏の祖とされ、当地に住み人々の尊敬を集めた。


いこまかんなびHPから。*1



10 難波の渡しの神


赤留比売を追ってきた天之日矛を遮った難波の渡しの神は阿遅速雄神。姪御だから。
この神は後世には草薙剣を盗んだ新羅僧をも遮った。

参考  *1『神功皇后と天日矛の伝承』宝賀寿男 *2『弥生に生まれた鳥神』中西美喜子
*3 『青銅の神の足跡』谷川健一 *4いこまかんなびHP

宇賀網史話

神奈備にようこそ