紀伊・淡路・阿波、黄金の三角地帯
海人の往き来した海域です。紀伊・淡路・阿波の海人族の痕跡を残す地名、神社、古文献等を示します。
伊耶那美の伝播 淡路島の伊耶那美の命の信仰を伝えたのは海人でしょう。 また、女神を受け入れる風土、これは南方系・海洋民族の流れにのったしなやかさの風土と思われます。 紀伊牟婁 花窟神社「伊弉冉尊」三重県熊野市有馬町 日本書紀の国生みの條一書(第五)に、「紀伊の国の熊野に葬った。土地の人がこの神をお祭りするには、花の時に花をもってお祭りし、鼓・笛・旗をもって歌舞してお祭りする。」との有名な行があります。 現在も、2月2日と10月2日にお綱かけ神事が行われています。 紀伊牟婁 熊野三所大神社「夫須美大神」和歌山県東牟婁郡那智勝浦町浜の宮 熊野の「むすび」信仰は、この神を伊弉冉尊と見なしていました。 阿波美馬 伊射奈美神社「伊射奈美命」徳島県美馬郡穴吹町三島字舞中島 この辺りに安曇氏の一派の粟の凡直氏が吉野川をさかのぼって勢力を扶植しました。 阿波美馬 天椅立神社「伊邪那岐命、伊邪那美命」徳島県三好郡三好町大字昼間 焼き畑の祭礼の一つに枝をうち払って梢だけを残した高木に供え物をするのがありました。
伊耶那美の生んだ阿波の神々 古事記の記述 古事記上巻一 島々の生成 淡道の次に伊予の二名の島をうみたまひき。この島は身一つにして面四つあり。(中略)粟の国を、大宣都比売といひ、(中略)。 古事記上巻一 神々の生成 (中略)次に大宣都比売の神を生みたまひ、(中略)。(中略)次に屎に成りませる神の名は、波邇夜須毘古の神。次に邇夜須比売の神。次に尿に成りませる神の名は弥都波能売の神。 古事記上巻三 蚕と穀物の種 また食物を大気都比売の神に乞ひたまひき。ここに大気都比売、鼻口また尻より、種々の味物を取り出でて、種々作り具へて進る時に、速須佐の男の尊、その態を立ち伺ひて、穢汚くして奉るとおもほして、その大宣津比売の神を殺したまひき。 古事記上巻四 大年の神の系譜 かれその大年の神、(中略)また天知る迦流美豆比売に娶ひて生みませる子、(中略)次に羽山戸の神。(中略)。羽山戸の神、大気都比売の神に娶ひて生みませる子、若山咋の神。次に若年の神。次に妹若沙那売の神。次に夏の高津日の神。又の名は夏の売の神。次に秋毘売の神。次に久久年の神。次に久久紀若室葛根の神。
大宣都比売の神を祀る阿波の神社
上一宮大粟神社「大宜都比売神」徳島県名西郡神山町神領 大宜都比売神が伊勢丹生の郷より神馬に乗り八柱の供神を率いて遷られ粟を蒔きこの地に広められたと伝わります。この神のまたの名を八倉比賣神と申し上げます。当社も式内社天石門別八倉比賣神社の論社です。 三重県多気郡勢和村丹生の地は古来よりの水銀の産地として著名で、古代の水銀蒸留用土釜を持つ丹生大師や丹生神社が鎮座しており、ここの丹生神社の祭神は埴山姫命で、美津波女命が配されています。しかし古い丹生神社の祭神は概して丹生津比売命が多く、丹生神社の祭神も埴山姫命かどうかは考慮しておく必要があります。参照、丹生都比売伝承。
世間には、このような神社の由緒から、埴山姫命=丹生津比売命=大宣都比売命 などとする異名同神説を唱える向きも出てくるでしょうが、似ている機能の神か、とは言えても、同一神とは言えません。
上一宮大粟神社の社伝によれば、阿波の国魂の神が伊勢の国から遷座してきたとの伝えです。大宜都比売神は名前は仰々しいのですが、根本は「ケ」にあり、「食物」を司る女神に、敬称などを付けた名前です。普通名詞ですが、阿波の国では粟の豊作を守る国魂とされたのでしょう。
一方、死体化生神話の女神として古事記にも記されているように古い神格の神だと思われます。社伝のように伊勢丹生から来られたとするなら、東から西への人々の移動ですから、縄文時代の氷河期の進行の頃でしょうか。サヌカイトなどの石器原料の移動でも見えるように、太古の人々は思いがけない距離を移動しています。
伊勢の丹生と阿波吉野川流域を結びつけるもの、これは共に、照葉樹林帯に属し、中央構造線上にあり水銀(丹砂)の産地でかつ地滑り地帯であると言うところが見えます。
大気都比売の神の生んだ神々 若山咋の神を祀る阿波の神社
若年の神を祀る阿波の神社
若沙那賣の神 狭宮神社 兵庫県氷上郡山南町和田
大気都比売の神は阿波の国魂の神です。
阿波、粟、大気都比売−谷川健一氏− 大宣津比売の遺体から生まれた穀物の名と一致する地名が徳島県の周辺にある。 蚕 児島半島 小豆 小豆島 粟 阿波 麦 徳島県南部の牟岐 自然のいたずらとは思えない。南方から渡来した古代の海人族は、阿波の国を中心として、大宣津比売の身体を描いてみたのだろうか。すなわち頭は児島半島に、下腹部は徳島県の南部に広がっている。 |
参考書
日本の神々 3 谷川健一氏 白水社
谷川健一著作集2 谷川健一氏 三一書房
徳島県の歴史散歩 山川出版社
邪馬壱国は阿波だった 古代阿波研究会 新人物往来社