お稲荷さん
お稲荷さんは朱い鳥居と狐が特徴で、この国の人で知らない人はいない神社でしょう。 全国の神社が13万社と謂われます。その内約4万社がお稲荷さんです。他に、工場、ビル、商店街の片隅などをいれますと、その10倍は鎮座しているでしょう。
これほど多く祀られているお稲荷さんですが、その起源、歴史については、ほとんど知られていません。このホペでは、その当たりを初歩的に紹介しつつ、地域のお稲荷さんを紹介します。
輪廻する稲魂
春には、今年の稲の収穫の祈願が行われます。稲魂のお出ましです。季節がめぐり、新たな稲作の開始とともに、稲魂は種籾とともに苗代にまかれます。
その後、田植えとともに、田の一角に住み着いて稲の成長を見守るのです。 夏の日差しで稲は生長し、花が咲き稲穂がつきます。天候がいっそう気にかかる時期です。いよいよ稲刈り、脱穀の作業となります。
稲魂は、収穫の成果を祀られ、山へ戻るとされます。
日本では、原始の神々や祖霊もまた、山に鎮まっていると言われます。他の神々と稲魂とは時として混ざり合い、モヤモヤっと一つになります。
毎年、農作業は繰り返されます。お米(種子)を残して稲は死にます。翌年、種子はまかれ、再び成長します。これを輪廻と言います。
輪廻する稲魂は、祖霊が生まれ変わってくると言う信仰に通じます。
記紀の穀物神
記紀とは、古事記、日本書記の略称です。ともに、8世紀前半に撰された、神話から記述されている強いて言えば歴史書と言えるでしょう。
古事記の大気都比売の神・豊受気毘売の神の誕生
伊耶那岐命と伊耶那美命が国生みの後、様々な神々を生成します。火の神を生む直前に、古い神格と思われる穀物の神である大宣都比売の神を生むます。
その後、火の神を生む際に御陰が焼かれ、病みます。尿から若い生産力の神である和久産巣日神が誕生します。その神の子が豊受気毘売の神です。穀物の神、御食津の神とされます。
伊耶那美命は死の苦しみの中にあります。その時に、和久産巣日神と豊受気毘売が誕生しています。後述の死体化生神話の変形でしょう。
日本書紀の稚産霊(わくむすひ)の誕生(一書第二)
伊弉諾尊と伊弉册尊が蛭児、素盞嗚尊を生んだ後、火神軻遇突智(かぐつち)を生み、伊弉册尊が焦(や)かれて終(かむさ)りまさむとする間に、土神埴山姫及び水神罔象女(みつはのめ)を生む。
則ち、軻遇突智、埴山姫を娶(ま)きて、稚産霊を生む。此の神の頭の上に、蚕と桑と生れり。臍の中に五穀生れり。(第十一の一書では五穀を、粟、稗、稲、麦、大小豆とする。)
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古事記の須佐の男の命
高天原を追われた須佐の男の命は下界に降りて、食物を大気都比売の神に求めました。そこで、大気都比売の神は鼻、口、尻からいろいろな食物を出しました。
これを見ていた須佐の男の命は、きたない事をして食べさせると思い、大気都比売の神を殺してしまいました。
殺された大気都比売の神の身体にいろいろな物ができました。頭に蚕、二つの目には稲種、二つの耳には粟、鼻には小豆、股間には麦、尻には豆が出来ました。神産巣日御祖の命がこれを取らせて種になさいました。
このような神話を死体化生神話と言い、赤道より南に分布をしています。穀物起源説話です。この神話で注意しておきたいのは、稲種は二つの目に出来ていることです。
天照大神と月読命は、イザナギ命の両目から誕生しています。古代の人々は目も稲も神聖なものとしていたのでしょう。
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日本書紀の倉稲魂命(一書第五)
伊弉諾尊と伊弉册尊が国生を終えた後、飢えて気力のない時に生んだ子を、倉稲魂命(うかのみたまのみこと)と言う。
日本書紀の保食神(一書第十一)
天照大神が天上にあって「葦原中国に保食神(うけもちのかみ)がおられるそうだ。月夜見尊、行って見てきなさい。」と言われた。
月夜見尊は、保食神のもとに行かれた。すると、保食神が首を回し陸に向かわれると、口から米の飯が出てきた。また海に向かわれると、口から大小の魚が出てきた。(中略)そのいろいろなものを揃えて机にのせてもてなした。
月夜見尊は、憤然として色をなしていわれ「けがらわしいことだ。いやしいことだ。口から出したものを、私に食べさせようとするのか。」と。そして剣を抜いて、保食神を打ち殺された。(中略)
その後天照大神は、天熊人(あまのくまひと)を遣した。保食神は死んでいた。ところがその神の頭に牛馬が生まれ、額の上に粟が生まれ、眉の上に蚕が生まれ、眼の中に稗が生じ、腹の中に稲が生じ、陰部に麦と大豆・小豆が生じていた。
天熊人はすべて持ち帰った。すると天照大神は喜んで言われるのに「この物は人民が生きていくのに必要な食物だ」と。そこで粟・稗・麦・豆を畑の種とし、稲を水田の種とした。
この神話も死体化生神話です。
日本書紀の天孫降臨(一書第二) 天照大神は、降臨する孫の瓊々杵尊(ににぎのみこと)に対して、「わが高天原にある斎庭の穂を、わが子に与えなさい」と。
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